公正証書遺言vs自筆証書遺言:あなたに合った選択

はじめに

人生の最期に向けた準備「終活」において、遺言書の作成は最も重要なステップの一つです。遺言書があれば、あなたの意思を明確に残し、大切な人たちの間で起こりうるトラブルを未然に防ぐことができます。しかし、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」、どちらを選ぶべきか迷う方も多いでしょう。この記事では、それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説し、あなたに最適な選択をサポートします。

公正証書遺言とは

公正証書遺言は、公証役場で公証人の関与のもとに作成される遺言書です。

遺言者が公証人に遺言内容を口述し、公証人がそれを筆記して作成します。

証人2名以上の立会いが必要となります。

公正証書遺言のメリット

高い法的安定性

公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が関わるため、形式不備による無効のリスクがほとんどありません。

公証人が法的要件を確認しながら作成するため、内容の明確性も担保されます。

原本の紛失リスクがない

公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。したがって、遺言書の紛失や破棄、改ざんの心配がありません。

相続発生後、相続人は公証役場で謄本を請求することができます。

検認不要

相続開始後、家庭裁判所での検認手続きが不要です。

これにより、相続手続きがスムーズに進み、時間と手間を大幅に省くことができます。

証明力が高い

公正証書は、日付、作成者、内容について高い証明力を持ちます。

遺言者の意思能力や署名の真正性についての争いが起こりにくいという大きなメリットがあります。

公正証書遺言のデメリット

費用がかかる

公証人手数料や証人への謝礼など、一定の費用が発生します。

遺言書の内容や財産額によって変動しますが、一般的に数万円から十数万円程度の費用がかかります。

手続きの手間

公証役場への訪問や予約、証人の手配など、準備に手間がかかります。

また、高齢や病気で外出が難しい場合は、公証人の出張サービス(有料)を利用することになります。

プライバシーの懸念

証人2名の立会いが必要なため、遺言内容を第三者に知られることになります。

家族や親族を証人にすることはできないため、他人に財産状況などが知られる可能性があります。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆で書き、日付を記入し、署名・押印して作成する遺言書です。

最もシンプルな方法で、いつでも自分で作成できます。

自筆証書遺言のメリット

費用をほとんどかけずに作成可能

紙と筆記用具があれば作成できるため、ほぼ無料で遺言書を残すことができます。

手軽さとプライバシーの保護

いつでもどこでも作成でき、他人に内容を知られることなく作成できます。

思いついたときにすぐ書けることや、何度でも書き直せる柔軟性も魅力です。

パソコンで財産目録作成が可能に

2019年の民法改正により、財産目録についてはパソコンで作成したものを印刷して添付することが認められるようになりました。

これにより、不動産や預貯金などの複雑な財産リストも正確に作成しやすくなりました。

自筆証書遺言のデメリット

形式不備のリスク

自筆証書遺言は形式要件が厳格で、少しでも不備があると無効になるリスクがあります。

全文自筆(財産目録除く)、日付記入、署名・押印のすべてが必要です。

紛失・破棄・改ざんのリスク

自宅などで保管する場合、紛失したり、相続人によって破棄・改ざんされたりするリスクがあります。

検認手続きが必要

相続開始後、家庭裁判所での検認手続きが必要となります。

この手続きは、遺言書の存在と内容を相続人全員に知らせるためのものですが、時間と手間がかかります。

法務局での自筆証書遺言書保管制度とは

2020年7月から始まった新しい制度で、自筆証書遺言のデメリットを大幅に軽減できます。

制度のメリット

安全な保管

法務局が遺言書を保管するため、紛失・破棄・改ざんの心配がありません。

検認不要

法務局保管の自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きが不要になります。

相続手続きがスムーズになり、公正証書遺言と同等の利便性を得られます。

遺言書情報の証明書

相続発生後、相続人は法務局で遺言書情報証明書の交付を受けることができます。原

本の画像データと内容を証明するもので、各種相続手続きで活用できます。

制度の利用方法と注意点

申請方法

全国の法務局・地方法務局の遺言書保管所に予約のうえ出向き、本人確認書類と遺言書を持参します。

手数料

保管手数料は3,900円(2025年現在)です。

証明書の交付には別途手数料がかかります。

注意点

  • 遺言書の内容確認は行わないため、形式不備があっても保管されます
  • 一度保管した遺言書は撤回のみ可能(訂正はできない)
  • 遺言者の死亡情報は法務局に自動通知されないため、相続人による死亡届出が必要

遺言書の作成費用比較

種類 基本費用 追加費用 総額の目安
公正証書遺言 公証人手数料(財産額に応じて変動:数万円~) 証人謝礼(1人5,000円程度)<br>出張料(必要な場合) 5万円~20万円程度
自筆証書遺言 紙代・筆記用具代(数百円) 検認手続き費用(数千円) 1,000円未満+検認費用
法務局保管自筆証書遺言 紙代・筆記用具代(数百円) 保管手数料(3,900円)<br>証明書交付手数料(1通1,400円) 5,000円程度

※専門家(弁護士・司法書士など)に相談・依頼する場合は、別途報酬が発生します(3万円~10万円程度)。

あなたに合った選択は?

公正証書遺言が向いている人

  • 法的な安定性を最も重視する方
  • 複雑な財産分与や条件付き遺贈を希望する方
  • 認知症などで判断能力低下のリスクがある方
  • 相続争いが起きる可能性が高い家庭環境の方

自筆証書遺言が向いている人

  • 費用を抑えたい方
  • 遺言内容を完全に秘密にしたい方
  • 内容が単純で、財産も比較的シンプルな方
  • 頻繁に内容を変更する可能性がある方

法務局保管自筆証書遺言が向いている人

  • 公正証書遺言の費用負担を避けたい方
  • 形式不備による無効リスクは許容できるが、紛失・改ざんリスクは避けたい方
  • 検認手続きの手間を省きたい方
  • プライバシーを重視する方

まとめ

遺言書の種類選びは、あなたの状況や優先事項に応じて決めるべきです。

法的安定性を重視するなら公正証書遺言、費用と手軽さを重視するなら自筆証書遺言、

そして両者のいいとこ取りを希望するなら法務局保管の自筆証書遺言という選択肢があります。

どの選択をする場合も、内容について専門家(弁護士・司法書士・税理士など)に相談することをおすすめします。

特に財産が複雑な場合や相続税対策が必要な場合は、専門家のアドバイスが有益です。

最後に大切なのは、遺言書を「作成して終わり」ではなく、定期的に見直し、必要に応じて更新することです。

人生の状況は変化するものであり、遺言内容も時代と共に変わっていくかもしれません。


※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に応じた法的アドバイスではありません。

具体的なケースについては、専門家にご相談ください。



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